阿呆が

見殺しですか

見殺しですか

「でも、見殺しにする訳にもいかないか……」

まあいいか、と彼女は一つ息をつく。二人の顔は、遭難していた所に救助の手が差し伸べられた漂流者のそれだった。

「でも、多分君達、幽霊部員で終わると思うよ」

「いや、そんなことはしません」

「その可能性は大だな」

彼女の問いに、正反対の回答が二つ告げられる。

翼と卓は互いを見やり、む〜、と唸っている。

そんな二人に向き直り、

「一応、挨拶しておくね。私は、泉明日香」

「え〜と、一年二組の大地翼です。よろしく」

「羽賀卓。卓って呼んでくれ」

どこか曖昧な笑みを彼女は洩らした。

「翼ぁ〜、金もっと出してくれよ〜」

「駄目! 僕が貧乏なのは知ってるでしょ!」

「ちぇ! このケチが」

卓は志水学園入学を祝って二人で祝杯をあげようと画策していた。翼はこれから個人的な用事があるため、卓が酒の調達役になったのだ。

「じゃ、おれは買い出しに行ってくらぁ。ちゃんと寮長さんに挨拶してこいよ」

「わかっている。そっちこそ酒の持込がばれて退学になっただなんてこと、ないようにね」

十字路で別れると、翼はぼう、と空を見上げた。

空は茜色の夕日。

雲は赤い海を航海する白き船。

「あの……すいません」

振り向くとそこには一人の外国人。

黒髪黒瞳、着込んだ紺のスーツが良く似合っている。外見の年齢は四十代位に見えるが、聡明そうな雰囲気が更に年を重ねてさせて見える。右手にはハンドブックの地図帳が握られている。