阿呆が

大地源蔵

大地源蔵

戸板が破れている箇所を顎でしゃくる。数枚の戸板で補強はされているものの、あれではすぐにまた補強が必要だ。

「これは確かに……オーバーワークになるかもしれませんね」

ロバートは深刻な表情で頷く。

視線を移し、お世辞にも綺麗とは言えない扉の前で止まる。

「ここに寮長さんがいます。どうぞ」

しかしロバートは、

「そうですね。まずはあの天井を何とかしましょう。その間にツバサ君は寮長さんに高校生活の報告をしていて下さい」

それだけを言うと背広を脱ぎ、工具室に向かって行った。

引き留める間もなくロバートが消えてしまったので、翼は彼の好意に甘え、寮長と話すことにした。

「あ、いらっしゃい、翼」

「綾姉、ども」

机で電卓を叩いているのは一人の女性。モデル張りの長身に、細面、少々鋭い目付きなのは視力が悪いからだ。どこかの社長秘書でもしているような雰囲気が彼女にはある。

翼が外で寮長さん、と呼ぶ人物は彼女のことだ。綾自身もこの学園の出身で八歳の頃に入園。奨学金を有効に使って大学で経済学部を卒業した後は、文字通り身を粉にして科乃学園の園長代理を努めている。

「じいちゃん、どこ行ってる?」

翼は辺りを見渡して綾に問う。

大地源蔵、その人がこの学園の創設者にして、孤児や遺児をこの学園に引き取ってくる老人。

自分を子ども達に『じいちゃん』と呼ばせたり、年長の綾や翼に『お姉ちゃん』『あんちゃん』と呼ばせるようにしたのも、彼の理念からだ。