コンタクト
「おい、いるか、翼! 入るぞ」
ドンドンと乱暴に部屋のドアがノックされる。
コンタクトを付けるのはいまだに慣れていない。慎重にやらないと眼底に付け損なってしまう。これが結構痛い。床に落として割ってしまうなどという最悪の事態でも招こうものならば、自分の貧弱な財政状況ではお手上げになってしまう。失敗は許されない。
故に、少年―翼と呼ばれた彼―は返事を返す事は出来なかった。そして声の主も返事を待たずにドアは開けられる。ギギギギ、と貧相な音を立てながら。
「起きたか、翼!」
声は朝っぱらにも関わらず大きい。
声量も凄いのだが、声の通り具合がまた凄い。
何しろ数千人の人々が行き交う雑踏の中でも彼が叫べばその存在が容易に確認出来る程なのだから。
青を基調としたブレザーに身を固めた青年だ。ネクタイは紺に近い。背はわりと高め、体格は良く鍛えられ、格闘者を思わせる体つきだ。
「うん? まだコンタクト付けてなかったのか?」
パジャマ姿のまま鏡と睨めっこをしつつ、必死な形相で左目を剥き出しにしてコンタクトを入れている翼の姿は異様を通り越して滑稽だとしか言い様がない。