腐れ縁
「……ふう」
しかし、コンタクトを入れる事に全神経を傾けていた翼に彼の声は届いていなかったようだ。安堵の吐息をつくと、彼の方に向き直り、
「うん? ……うわぁ!」
椅子から飛び上がり、文字通り悲鳴をあげる。
せわしなくばたばたと両手をぶんぶん振り回す。
「い、いつのまに入ったんだ、卓?!」
「お前がコンタクト付けている間に」
翼の糾弾に平然と卓と呼ばれた青年はそ知らぬ顔で答える。
「まあ俺に見られても問題ねえけどよ、他の奴等に見られたら後がうるさいぜ? コンタクト付けている所だけは出来る限り見られんなよ?」
気難しい顔で注意するが、その声には多分に翼を心配しているのが感じられる。
羽賀卓と大地翼は物心つく前からの付き合いだ。翼の左眼の事も知っている数少ない人物であり、何でも打ち明けられる親友。
五日程前から二人は今日から通う志水学園の寮に入っている。翼は経費節減の為、卓は諸々の事情で自宅が遠方の為だ。
腐れ縁なのか翼の隣室が卓。もう一つの隣室は空き部屋。
あまりにもぼろい寮の為、入寮者の数は年々減少しているそうだが、その分寮費は格段に安い。光熱費は寮の負担で、彼等が払うのは寮の食事で出される朝夕の食費、住居費合わせて二万五千。ゴキブリが頻繁に出る、雨漏りは当たり前、隣室の会話は筒抜けとデメリットは数多くあるが、それらを差し引いても貧乏人の翼には破格と言って良い値だ。しかも学力推薦入学試験で志水学園に入学した翼は学費も寮費も全て無料なのだ。